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カインは、瞳を開けた。
「……ここは……?」
見慣れた部屋。固いベッドの感触にも覚えがあった。
「おお、隊長! ――お目覚めですか!」
竜騎士隊の部下が語りかける。
気づいてみれば、何のことはない。そこはバロン城内、カイン自身の部屋だった。
「……俺は……一体?」
「我々にも詳しいことはわからないのですが……カイン隊長が暗黒騎士隊の隊長とご一緒にミストへ行かれた後、あの付近で起こった地割れの調査をするようにと、我々も派遣されたのです。ミストの村の手前で、カイン隊長が倒れておいででした。何があったのです?」
「……ああ」
緑の髪の少女の面影が、カインの脳裡をよぎる。心が痛んだ。気になることはもうひとつあった。
「セシルは……?」
尋ねたその言葉に、部下は顔を俯く。
「セシルはどうした? 無事なのか?」
「それが、何とも……。あの場にいらっしゃらなかったのです」
カインは瞳を見開き、そして、自分を落ち着けるようにゆっくりと、息を吐いた。
「……ということは、生きている可能性もあるということだな」
「ええ」
カインはその言葉を耳に入れるか入れぬかのうちに、心の中で呟いていた。
セシル、生きていてくれ――と。
だがそれは、セシルの同じ言葉より切実な響きを持っているわけでは、なかった。
なぜならカインのそれは、幼馴染みの大事な親友を失うかもしれない不安と、恋敵に何の前触れもなく消え去られてしまうことへの不安でしかなかったのだから。
「お身体は大丈夫ですか? もし障りがなければ、ゴルベーザ様にご挨拶なさったらいかがでしょう」
部下の言葉に、カインは首を傾げた。
「……ゴルベーザ……?」
「あ、ああ……暗黒騎士隊のセシル隊長がおられなくなった後、他国から来て赤い翼の部隊長になった方です。ベイガン様や陛下も一目置いてらっしゃるようです」
しかし、それが国王陛下への現状報告より先にすべきことなのか――?
部隊長同士の方が接触する機会も多いとは言え、異常ではないだろうか。
疑問はあったが、部下が執拗にすすめるので、とりあえずそれを受け入れることにした。
「――わかった。着替えてすぐ行くとするか」
「自分は、そのようにゴルベーザ様にお伝えして参ります」
部下はそう言って、カインの部屋から出て行った。竜騎士隊でずっと一緒だった部下のはずなのに、この違和感は何だろう。ゴルベーザという男の部下なのではないかとすら錯覚してしまいそうになる。
カインはベッドから降りた。ほんの少し眩暈がしたが、首を振って自分を励ました。
どうやら、自分が想像しているよりずいぶんと時が経っているようだが、一体どのくらいの間気を失っていたのだろう。
――それに、ゴルベーザという男は一体何者なのだろう?
あれだけ優秀に赤い翼を指揮していたセシルをろくに探しもせず、他国から新たな指揮官を迎えるとは、尋常でない。
カインは不信を感じつつも、正装に身をかためた。
ゴルベーザの部屋は、塔の最上階にある。その下はセシルの部屋であり、今は主を失った空き部屋となっている。ゴルベーザのその部屋は他のどの部屋よりも孤立した一室となっていた。
軽くノックすると、低い落ち着いた声が、「入れ」とカインの入室を促した。
「竜騎士隊長、カイン・ハイウィンドだ。入るぞ」
いくら国王やベイガンに一目置かれているとはいえ、同じ部隊長なのだから、敬語を使う必要はないだろう。カインはそう言って、ゴルベーザの部屋の扉を開けた。
部屋の中の長身の男が、マントを翻し、カインを迎える。恐ろしげな仮面をつけていて、その素顔はこの状態からは全くわからない。だが彼はしばらくの間、まるで何かに驚いたように、部屋の中へ足を進めたカインをただ見つめていた。
「ゴルベーザか? 一応、互いの顔を見知っていた方がいいのではないかと思ってな」
「……お……お前は……」
「俺は、カイン・ハイウィンド」
カインの声を聞いて、それからゆっくりと、自分を納得させるようにゴルベーザは呟く。
「お前が……カインか……」
カインはその、茫然と繰り返す声の主を、わけもわからず見つめ返した。
「いかにも、そうだ。だが、お前は一体何者なんだ? 突然バロンにやってきて、赤い翼の部隊長になったとか聞いたが――」
カインの問いかけに、カインをずっと追い越す長身が、ハッとしたように自分を正す。
「――口の利き方を知らないようだな」
地を震わすような声が、カインの耳に響いてきた。
「――この俺に、そんな横柄な口は利かせない」
ゴルベーザはそう言うなり、兜を脱いだ。
長い髪がゴルベーザの肩の上に散らばる。カインがよく知っている誰かに似ているような気がしたが――それが誰なのかは咄嗟にはわからなかった。カインの知っている誰とも決定的に違う、男らしさを誇示するような美貌の持ち主だった。その美眉が、眉間に皺をつくる。それは凄絶なくらい美々しい、逞しい怒りの表情だった。
「……俺を呼び捨てにするな……」
ゴルベーザの瞳から、閃光が散る。
「はっ、何言って……」
笑い飛ばそうと思った。のだが。
「俺の名を口にする際には『ゴルベーザ様』と言うんだ、カイン――!」
ゴルベーザの眼光を目の当たりにしてしまったその瞬間、カインは、えもいわれぬ甘美な波に飲み込まれていた。
「……な……に……?」
纏わりつくような、精神の糸。自分自身がマリオネットのように操られていくのがわかる。右腕、左腕、指、脚、首、頭の中まで。
「俺に不躾な物言いはさせないと言ったはずだ、カイン――!」
「……う……あ……あ……」
カインが全身で叫んでいるつもりの声が、もう声にならない。
ゴルベーザの瞳は、尚も怪しく光った。
「カイン、俺を呼んでみろ……」
唇が、勝手に動く。カインは自らの意志でなく、ゴルベーザの意志によってのみ、唇を開いた。
「……ゴ……ゴルベーザ……さ……ま……」
違う。こんなことを言いたいのではないのだ。こんな男に、こんな妙な術にかけられて、屈服したくはない。だが身体は、いともたやすくこの男の術の前に屈服してしまう。
「竜騎士隊は、赤い翼の下に置くことになった。お前は俺の部下となる。カイン、俺に今後失礼な口を利かぬようにな……」
「……い……や……だ……」
「カイン――!」
全身の力を振り絞って口にしたカインの否定の返事に、ゴルベーザの冷たい美貌は恐ろしいほどに歪み、不思議なことにそれでも美しさを損ねてはいなかった。
「カイン――まだわからないのか――逆らうなと言ったばかりだろう――」
その瞳は、異様な輝きを更に増し、カインの心と脳を深く刔った。
そしてその瞬間、カインの頭の中で何かがぷつりと切れた。
「は……い、ゴル……ベーザ……様……」
カインの唇は、従順にそう発音していた。
それが今のカインに言える言葉のすべてだったのだ。
*******
ゴルベーザには、突然襲ってきた、今までに一度も経験したことのない自分の気持ちが一体何なのか、まったく理解できなかった。
親に捨てられ、誰にも愛されず、自分の力だけで生きてきた子供だったゴルベーザは、これまで自分以外の誰をも信じたことなどなかった。誰かを見て心を動かされることなど本当に全くなかった。誰かが目の前で、自分のせいで死んだとしてもほんの少しも心は動かなかったし、たまに心が揺らめくことがあったとしても、それは憎しみの感情でしかなかった。
だから――ゴルベーザには、自分にとってこのカイン・ハイウィンドという青年が一体何なのか、全く理解できなかったのだ。
竜騎士とは、竜の心を開かせ、手懐けることができる者のみがなれる戦士であるという。つまり、竜騎士隊長であるカインは、その竜騎士たちの中でも更に、その、竜の心を開かせる手腕に長けている戦士なのだろう。だからおそらくカインは、子供の頃からかたくなにしまってあるゴルベーザの心をも、自分でも気づかないくらい自然にこじあけようとしていたのに違いない。
そのせいなのか、別の何かが原因なのかはゴルベーザにはわからない。
ただ――ゴルベーザは美貌の竜騎士に一目で心を奪われてしまった。まるで自分がカインにかけた術が、ゴルベーザ自身を縛り付けたかのように。胸をかきむしりたくなるほど強く。
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渡辺諄子
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女性
自己紹介:
※当然ですが、FF4の公式(スクエア・エニックス)とは一切関係ありません。ファンが好き勝手なことを書いているファンサイトです。しかも腐女子向け。
※カップリングはゴルベーザ×カインです。
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